1. ユーフラテス河流域の発掘調査(シリア)
当館は設立当初から1980年にかけて、シリア・アラブ共和国のユーフラテス河流域で考古学的調査を実施してきました。ダム建設に伴う緊急調査で、テル・ルメイラおよびテル・ミショルフェ遺跡の発掘を行い、青銅器時代から初期鉄器時代、ローマ・ビザンツ時代におよぶ古代文化の一端を明らかにしました。
この調査は、貴重な文化財を水没前に調査記録しようというUNESCO(ユネスコ:国際連合教育科学文化機関)の呼びかけに応じたものです。遺跡から出土した遺物の一部がシリア政府から当館に寄贈され、当館における展示の重要な柱となっています。
テル・ルメイラ遺跡 遠景
テル・ルメイラ遺跡 家屋復元模型 前1600年頃
祭祀関係遺物(家形模型、奉献台、壺、香炉など) テル・ルメイラ出土 紀元前1600年頃
テル・ルメイラ遺跡 発掘風景
2. テル・マストゥーマ遺跡(シリア)の発掘調査
1980年から1995年まで北シリアに位置するテル・マストゥーマ遺跡で発掘調査を行いました。青銅器時代から初期鉄器時代にかけての村落が営まれ、最上層にはアケメネス朝時代の遺構も見つかっています。
青銅器時代の層位からは多数のオリーブの実の炭化物が出土しており、近くにあるエブラなどの大都市にオリーブを供給していたと推測されます。
また、初期鉄器時代の層位からはブドウなどの圧搾施設が検出されました。同時に大型壺が多数出土していることと考え合わせてみると、葡萄酒やオリーブ油作りで栄えていたことが明らかになりました。
Memoirs of Ancient Orient Museum Vol.III:
Tell Mastuma: an Iron Age Settlement in Northwest Syria
テル・マストゥーマ遺跡で発掘を指揮する故江上波夫(初代館長)
テル・マストゥーマ遺跡の発掘 凧をつかった空撮
3. 古代パルミラ 彫刻資料集成調査
シリア沙漠の中央に位置するパルミラ遺跡は、ペルシア湾と地中海を結ぶ交易路の隊商都市として、紀元後1〜3世紀に栄えました。四方からもたらされる通商品に関税をかけ、自らも隊商団を組織して膨大な富を蓄積していました。
古代パルミラに生きた人々は、塔墓、家屋墓、地下墓などを建造し、死者の浮彫で墓を飾っていました。その彫刻はローマ様式とイラン様式など様々な美術要素が折衷したもので、東西文化交渉史の上でも重要な位置を占めています。
1984年に古代オリエント博物館が実施した調査の成果は、Memoirs第1巻として刊行されました。
Memoirs of the Ancient Orient Museum Vol.I:
Sculptures of Palmyra
若い女性の肖像(シャルマラート墓出土、後2世紀、パルミラ博物館)
饗宴図浮彫(マルクー墓、後2世紀、ダマスカス国立博物館)
4. コンマゲーネ王国 彫刻資料調査
コンマゲーネ王国はトルコ東部で紀元前1世紀頃を中心に栄えた国です。ニムルト・ダーやアルサメイアなどの遺跡には数多くのグレコ・イラン様式の浮彫が遺されており、西アジアにおけるヘレニズム文化の受容の実態を明らかにする上で重要な手がかりを与えてくれます。
1986年から1987年にかけて、これらの資料を集成するために写真撮影調査を行い、その成果をMemoirs第2巻として刊行しました。
Memoirs of the Ancient Orient Museum Vol.II:
Sculptures of Commagene Kingdom
ネムルト・ダー遺跡 西テラス浮彫(前1世紀)
ネムルト・ダー遺跡 東テラス神像群(前1世紀)
5. ダルベルジン・テパ(ウズベキスタン)の発掘調査
ウズベキスタン共和国南部にあるダルベルジン・テパ遺跡は、グレコ・バクトリア時代からクシャン朝時代、そして中世初期にかけての都城址です。
当館は文化財保護振興財団とシルクロード研究所の助成を受け、1995年から2001年にかけてチタデル(王城址)を発掘しました。今までデータの欠けていた後6〜8世紀の都城址の内容が明確となり、試掘坑ではグレコ・バクトリア時代の土器焼き窯を発見しました。
チタデル4区 第1層の台所跡(後7〜8世紀)
チタデル4区 第2層の建築遺構(後6〜7世紀)